本の定価と電子書籍

 世の中は常に動いている。本も定価をやめて価格競争をするべきだという動きは未だ続いているし、iPodの登場に電子書籍化の動きも顕著だ。しかし、どちらもTRPG業界には良い話と思えない。まず、価格競争であるが、これが行われない最大の理由は日本に『再販制度』があるからだ。自由に価格を設定することができるアメリカではほとんどの本が売り切り。重版されるのはベストセラーのみという状況。で、TRPG本といえば、売り切りの最有力候補である。ちょっと時間の経ったルールブックやサプリメントを手に入れようと思ったら、オークションでなければ難しいような状況。それに下手をすると売れないTRPGは作られない可能性すらある。はっきり言って、定価が崩れたらTRPG業界は製作側もユーザー側も厳しい……。次いで電子書籍化だが、すると便利だと思う。しかし、この便利というのが曲者だ。今のTRPGのルールブックを思い返して欲しい。それらはひとりが一冊持っている方が好ましく出来てはいないだろうか? そう、電子書籍化によって利便性が高まってしまった場合、購入される冊数が減ってしまう可能性がある。それでなくとも電子データなだけに、不正コピーされる心配が後を絶たない。まあ、既に絶版になっているようなシステムが『ゲームアーカイブス』のような感じで電子書籍化されていく可能性は高いと思うが、最新の売れ筋が並ぶという可能性は低いと思う。ちなみに私の友人がエクセルを使って、とあるスキルのたくさんあるシステムの埋め込み型キャラクターシート(データを選択していくことによって完成済みのキャラクターシートが出来上がる)を作っていたが、あまりに『出来が良かった』ので配布することは出来なかったそうだ。


 最後にTRPG本が値上がりしている、からくりを書いておこう。あるルールブックが千円で、一万冊売れたとする。そして、著作料は10%とするならば、

  • 1000×10000×0.1=1000000(百万円の収入)

 しかし、ユーザー数が半分に減ってしまった。しかし、ある程度の収入が欲しい。著作料は10%のままだから、後は本の値段を上げるしかない。とりあえず、二千円にアップだ。

  • 2000×5000×0.1=1000000(百万円の収入)

 更にユーザー数が減った。しかし、ある程度の収入が欲しい。ならば、今度は三千円にアップだ。

  • 3000×3000×0.1=900000(九十万円の収入)

 と、簡単に書くとこんな感じ。売れない本は値段を上げないと元が取れないのである。それで、現在のルールブックやサプリメントの値段を鑑みてもらえば、どれだけ売れているか、よく分かると思う。で、当分TRPGには自由価格も電子書籍化も要らないと思うのだよ。