永遠の0

「娘に会うまでは死ねない、妻との約束を守るために」。そう言い続けた男は、なぜ自ら零戦に乗り命を落としたのか。終戦から60年目の夏、健太郎は死んだ祖父の生涯を調べていた。天才だが臆病者。想像と違う人物像に戸惑いつつも、1つの謎が浮かんでくるーー。記憶の断片が揃う時、明らかになる真実とは。

 一番に引用をもってきたが、まあ、これを読めばどんな内容かは想像がつくと思う。おまけに、帯びには泣ける話! 何々で1位をとったいう実績持ち! と、興味をそそるような言葉の嵐。という訳で、大いに楽しみにして読んだわけだ。……読み終わって思ったことは、これ、どこで泣くんだろう? 分からない。あとがきを読んで、書いてある場所を読み返したが、泣ける気持ちにはなれなかった。正直、私は涙もろい。ありふれたTVドラマを見ても泣くし、『英霊の言乃葉』なんて読んでる最中は涙が止まらなかった。
 それで、時間を置いて理由を考えてみたのだが、祖父が特攻した理由が分からない。問題はこの一点だ。約束を守るために臆病者と罵られようとも、そのスタイルを変えなかった男が何故最後の瞬間になって生き残る術を捨てるのか……。おそらく、この作品における最大の謎であるのにまったく理解できない。考えられる理由はいくつかあるが――、

  • 特攻隊員を育て、特攻という行為に協力してしまった罪滅ぼし

 だが、作中で特攻の生みの親である大西瀧治郎を出して「罪滅ぼしに自決するぐらいなら、止めればよかったのだ」と書いている以上は違うのだろう。

  • 助けてくれた人への恩返し

 特攻から助かる術をその命の恩人に譲る形になるのだが……どう考えても、祖父は多くの激戦区を渡り歩いている。こういった形はありふれていて当然だろう。この時だけ、身代わりになったというにはそれまでの行動と一貫性が無い。

  • 一時の気の迷い

 人間だから意志はぐらつくものである。実際、一度は助かる術を取ろうとしている。もしかしたら、一日経てば違う結果になっていたのかもしれない。……しかし、祖父は実在の人物ではない。作品の根幹を成すものであり、これが気の迷いなんかでいいのか……?


 上記の理由が複合している可能性も否定できないが、何にしても『何故』の答えは分からないままだ。ついでに挙げるとテーマもよく分からない。戦争のことを語りたかっただけなのかもしれないが、祖父を通して何を伝えたかったかははっきりしない。否定的な言葉が続いてしまったが、『何故』に答えられる人は正直教えて欲しい。

永遠の0 (講談社文庫)

永遠の0 (講談社文庫)